「相手のため」に努力しているのに…
兵庫県西宮市の甲子園球場のすぐ近くに歯科医院を開業したのは2001年のことです。日本では、コンビニよりも歯科医院の数のほうが多いと言われているように、業界に飛び込んだ私が実感したのは、その競争の厳しさでした。「生き残るためには高い治療技術を持つしかない」と、歯科医師として卓越を示す数々の資格を自ら取得。さらにスタッフにも高い治療技術の習得を求め、厳しい指導を行ってきました。
その結果、10年で4院を展開するまで成長し、私も物質的に豊かになっていきました。高級車、高級時計、高級住宅街の自宅、そして家族との海外での休暇など、いわゆる「成功の象徴」とされるものを数多く手に入れることができたのです。
ところが、この頃を境に「長田先生にはもうついていけない」とスタッフの退職が増加していきました。院内の人間関係に亀裂が表出してくると、患者様とのトラブルも数多く発生し始めました。院長である私は、休日もプライベートの時間を投げ出して問題解決に奔走しました。次第に家族との時間も減少し、家庭内での言い合いも多くなる日々。「スタッフの成長のために指導しているのに、家族のために働いているのにどうして理解してくれないんだ…」。自らの努力に対して、得られるものは求めているものと真逆の結果でした。職場でも家庭でも居場所がなくなっていった私は、徐々に人間不信に陥ってしまったのです。
とうとう30名のスタッフが10名にまで減少し、4院の売上は激減します。経営状況はますます悪化していき、さらに借金も相まって状況は一転。倒産の危機に陥ってしまいました。強い危機感から、何とか状況を打開できないかと模索していたときに出会ったのが、『頂点への道』講座でした。
「治療の技術」から「人間関係の技術」の習得
これまでも数多く研修を受けてきましたが、いつも学んできたことは、「人をいかにコントロールするか」という方法でした。しかし、アチーブメントの基礎理論の心理学、選択理論では真逆です。「人はコントロールできない」という前提のもと、内発的な動機付けを重視する考えに大きな衝撃を受けるとともに、青木社長がその理論を具体的な仕組みに落とし込み、高い成果を上げていることに驚きました。
続けて『頂点への道』講座の体感型研修を受講していく中で、これまでの自分の行動を客観的に突きつけられました。スタッフに厳しい指導をしてきた奥底には、どこかで「都合よく使おう」、「給与を極力抑えて働かせよう」といった気持ちがあり、これまでスタッフを「自己実現のための道具」だと思っていたことに気づかされました。「相手のため」と言いながらそれらは「自分のため」の行動でしかなかったのです。
中でも、具体的に日々の行動に変化を与えたのがPTP(※1)の受講、特に、自分のプレゼンテーションに対しての、講師やプロスピーカーの方々からのフィードバックでした。表面的ではない心からの承認や、時には私のために言いづらいことも伝えてくださる姿勢から、真の「相手のため」の行動と、その本質にある「在り方」が理解できました。選択理論で関わることによる、内発的動機付けの価値を強く体感できたのです。
「この学びをスタッフに行動で示す」、そう決意し、徐々に院内で選択理論を基にしたリードマネジメント(※2)を実践していきました。「身につけたい7つの習慣」を用いて関わることはもちろん、カウンセリングスキルを高めるため選択理論の講座にも積極的に参加しました。また、スタッフの成長を促進できるマネジメント技術を身につけるため、コースアシスタントにも何度も入りました。受講生の方々への貢献が主たる目的なのは当然ですが、院のスタッフと異なり、初めてお会いする受講生との関わりを通じて、より一層自らのマネジメントレベルの正確な把握にも繋がりました。
トップの変化が導く組織風土の変化
そんな私の変化を見て、スタッフが続々と『頂点への道』講座を受講していきました。さらに、院内研修も実施していくことで、アチーブメントテクノロジーや選択理論の概念が共通言語として共有されていきました。「外的コントロールは効果的ではない」という認識をスタッフ全員が持てるようになったことで、トップダウンでリードマネジメントが用いられるようになったのです。
段階を追って組織が変化していったことで、新卒採用もアチーブメントの力を借りて実施しました。そのノウハウをいただきながら、現在では当院のみで理念共感型採用を行っています。スタッフが新卒社員に対して院の理念を語る姿に、理念浸透が促進していることへの確信がますます強まっています。
こうした取り組みから、ネガティブな理由での退職は皆無になりました。業績もV字回復し、受講から毎年最高収益を達成しています。さらに、全国の歯科医院を対象に、覆面調査員が満足度を調査する「歯科甲子園 D-1グランプリ2013」では、4院全てが優秀賞を受賞することができました。医療技術の向上のみを主張していた頃よりも、選択理論を土台にした組織づくりを行うことで、はるかにクオリティが高まっています。
成果と人間関係が両立した組織へ
かつて〝自己実現のための道具〟だと思ってしまっていたスタッフは、今では共に幸せになりたい大切な『パワーパートナー』です。もちろんフィードバックすることもありますが、以前のように「相手のため」と言いつつも「相手をコントロールしよう」としていた関わりではありません。それは強い信頼関係を土台に、願望に寄り添った、真の意味で「相手のため」に成長を支援する関わりです。スタッフ同士でもこうしたやり取りが見られるようになり、成果と人間関係が両立した組織へと着実に近づいていると実感できています。
さらに、自らの学びと経験を通して、広く歯科業界に貢献していくため、プロスピーカーとしても活動を広げています。私が伝えたいのは、単なるスキルという意味の〝技術〟ではなく、誰でも身につけられるという意味での、〝高い成果と良好な人間関係を両立させる技術〟。そのためにも、常に私が行動で率先垂範の姿を見せ、成長を続けていきます。