「わかってくれない」葛藤の日々
私は2002年にうえの歯科医院を設立し、現在横浜市で歯科医師として仕事をしています。私は独立前からずっと、「患者様の悩みを解決するのが歯科医院なんだから患者様に尽くすのは当たり前」という気持ちを人一倍持っていました。そのためスタッフが私の考えとズレた行動をすると理解ができず、乱暴な態度をとったことも少なくありません。そんなことでは当然スタッフは定着せず、長くても2年、早くて半日で退職という日々が何年も続きました。なかには「院長は人をダメにする」と言って去る者もいました。普段は「あいつが弱かったんだ」と立ち直り、引きずることはなかったのですが、さすがにその時だけは「医院を良くしたいと思っているのに」という気持ちから、悔しさや怒りにも似たショックを受けました。
「どうしたらスタッフはわかってくれるんだろう。」そんな悩みを抱え歯科コンサルタントに相談したこともあります。しかしそこで言われたのは「理想が高すぎる」という言葉。自分の理想とする医院は実現できないのか、と落胆しかけていた矢先にアチーブメントの青木社長が書かれた本に出会ったのです。そこに書かれていたのは「自分の思いを伝え、その思いに共感する人たちと働く」という私の理想そのものであり、またそれを実現している企業の姿でした。「ここで学び、理想とする組織を創りたい」そう思った私は『頂点への道』講座の受講を決意したのです。
苦労の先に見えた学びの本質
スタンダードコースで得た一番の気づきは、「致命的な7つの習慣(※1)」に象徴される「外的コントロール」を私が使っているということでした。そして人を支配しようとするその考え方は、私が目指す組織を創るのに逆効果であると知ったのです。
早速医院に戻り、講座で学んだ「身につけたい7つの習慣(※2)」を実践。しかし現実は甘くありませんでした。なかなか本心からスタッフを信頼できず、実践してもスタッフは変わらなかったのです。これには上手くいかないことへの怒りさえ感じましたが、それでも「患者様のために」という気持ちと「決めたらやり通す」という自分の哲学から諦めることはありませんでした。ストレスがたまり突発性難聴や円形脱毛症にもなりました。身体が悲鳴をあげ、耐え切れなくなった私は、一向に変わらないスタッフに対してついこんな質問をしたのです。「○○さん、なんでそんなことするんだい?」するとそのスタッフは「患者様のためになると思ったからです」と答えました。聞いてみるとそれは、私の考えとは少し違うものの確かに患者様のためになる行動でした。それを知った私が彼女の主張を認めたうえで「今はこっちを優先してほしい」と伝えたところ、彼女は素直に行動を改善してくれたのです。
その時私は、それまでの学びが本当の意味で腑に落ちました。これまでもスタッフに対して「傾聴すること」や「認めること」は行おうとはしてきましたが、それは意図的なもの。しかし今回、意図的にではなく自然と行動できたのは、「スタッフがなぜそうしているのか」といった行動の目的を知り、その目的が「患者様のために」という自分の目的と同じだとわかったからなのだと気づいたのです。スタッフとの良い関係を維持しながら、生産的な話し合いができたそのときの感覚を、私は今でも忘れません。
「支え合い」が生んだ組織の変化
上位の講座では、自分はスタッフに支えられているということを知りました。乱暴な発言を残して辞めるスタッフがいるなか、それまでの私は「一人で闘っている」という苦しさや寂しさを感じていたのだと思います。しかし体感型ワークに取り組む中で、「自分はスタッフに支えられここまでこれた」と理解し、途端にスタッフへの感謝が涙とともに溢れ出てきたのです。そしてその感謝は「自分に協力してくれるスタッフを今度は自分がサポートしたい」という強い気持ちへと変わっていきました。
それとともに、スタッフへの関り方も大きく変わりました。例えば毎月全スタッフと行う面談では、それまでは私から「こうしてください」と一方的に伝えることが多かったのに対し、「この医院でどうなっていきたいのか」などスタッフの求めているものを聞くことが多くなりました。そして私はどうしたらスタッフの目標や願望を叶えられるのかを一緒に考え、計画に落とし込むサポートをするようになったのです。すると次第にスタッフの方から面談を求めてくるようになり、「院長変わったよね」という言葉もあがるようになりました。それとともに、目標を達成できることが多くなったことで自信が育まれたスタッフが、恐れをなくしイキイキと働くようになり、それを見た患者様からも「元気をもらって帰れるんだ」といったお言葉までいただけるようになったのです。
さらに採用では理念採用という形式をとり、会社の理念やビジョンを伝えると同時に相手の願望を伺い、お互いにとって良いと思える人材をそれまで以上に採用できるようになりました。すると長くて2年だったスタッフの勤続年数も既に倍になり、応募も増え採用人数は3倍にもなったのです。そして何よりうれしいことは、理念に共感しているため患者様への貢献心が強く、主体的なスタッフたちと働けるようになってきていることです。今は、スタッフの幸せを一緒につくるという責任を強く感じながら、多くの患者様に愛される医院をみんなで創ることができているという実感があります。
歯科業界の組織変革モデルへ
スタッフが主体的に取り組むようになった結果、最近では毎年最高売上を更新することができています。また『行列のできる歯科医院』という書籍にも執筆掲載され、全国縦断セミナーにも参加できたりと、お蔭さまで歯科業界で徐々に認めていただけるようになってきました。歯科業界は「トップの言うことを聞いていればいい」という雰囲気が強く、外的コントロールが蔓延してしまいやすいのが現状です。加えて歯科業界は現在、就職希望者にとって引く手あまたですから、以前の私のように人材に苦労している方も多いと思います。私たちの医院はこれから組織変革のモデルとなり、歯科業界でどのように人材を確保し、育成するかをさらに伝えていける医院を目指していきます。