独りよがりの責任感で心も身体もボロボロに
大学院を卒業し、私についた初めての肩書きが「所長」でした。事務所に入所すると、税理士の資格を持っている人が私だけだったのです。25歳のときでした。驚きましたが、経験豊富な先輩スタッフによって事務所はまわっており、私は「肩書き所長」であることを問題視しなくなりました。
そんななか、「責任感を持たなければ」と感じはじめたのは、税理士仲間からの助言があってのことでした。「何かあったらお前の首が飛ぶんだぞ」そう言われて「はっ」とした私は、組織の責任者としての自覚を持ったのです。
しかし、それが苦悩の幕開け。入所以来避けてきた「肩書きと経験のギャップ」が立ちはだかったのです。勤続年数の長い先輩方から、認めてもらえませんでした。
何とかしたい私が閃いたのは、社労士の資格を取ることでした。そうすればお客様からもっと頼られるようになり、稼ぎ頭である私のことを先輩たちも認めざるを得なくなると思ったのです。
その考えは当たっていました。唯一営業ができる私がたくさん仕事をもらってくると、先輩たちも渋々従い始めたのです。しかし、そんな矢先。事務所で重大なお金の問題が発生しました。管理を任せていたのは、経験豊富な先輩スタッフ。職業柄、お金に関して熟知していた私にとって、あってはならない出来事でした。「首が飛ぶ」という言葉が脳裏をよぎりました。スタッフを信頼できなくなった私は、その日を境に重要な仕事はすべて私が担い、スタッフを厳しく管理するようになったのです。
そこからの状態の悪化は凄まじいものでした。先輩スタッフのモチベーションはどんどん下がり、私との人間関係はボロボロに。唯一資格を持っている私が苦労して仕事をもらってきても、誰も感謝してくれません。さらには、私の仕事量は莫大に。ストレスで顔が痙攣するほど、心も身体も疲れきっていました。
「このままでは限界がくる。なんとかしなければ…」そんな気持ちを抱え、藁にもすがる思いで受講したのが『頂点への道』講座でした。
限界感を取り去った二つの気づき
『頂点への道』講座で私が得たのは、事務所を再建する「確信」と「見通し」でした。
「確信」とは、「事務所をよくするにはほかの誰でもない、私自身が変わる必要がある」ということ。それは、ある体験ワークでの学びでした。人一倍リーダーシップを発揮して、持てるすべてを出して取り組んだのですが、結果はボロボロ。そこで気がついたのは、他人を押しのけてでも自分が勝とうとしていた考え方の癖です。そうすればするほど自他共に損をし、結果は悪い方にしか行かなかったのです。それは私の事務所の現状と重なりました。「スタッフとの埋まらない溝は、他の誰でもない私が作りだしていたのだ」「これまでの私は独りよがりだったのだ」と頭を殴られたかのような衝撃を受けたのです。と同時に、「事務所を立て直すために、何が何でも私が変わるのだ」と強く強く決意したのを覚えています。
二つ目の「見通し」を持つヒントとなったのは、講座で習った「選択理論」が伝える「人はそれぞれの欲求を満たそうと行動している」という学びでした。今まで独りよがりでやってきたことを先輩スタッフに謝ったときに「寺田君が正しいとは思っていたけれど、自分の感情が邪魔して素直に従えなかった」と私に打ち明けてくれました。それを聴いて、私は「承認されたい」「指示されたくない」というスタッフの欲求を無視して、「重要な仕事は私でやったほうが確実だ」という安心感や、「スタッフはトップに従って当たり前だ」という正しさを優先していたことに改めて気がついたのです。これを変えなければ何も良くならないと思い、それ以降はスタッフの主張や願望を尊重し、欲求を満たす関わり方をどうしたらできるのかと、必死に考えるようにしました。
スタッフ第一主義をもとに枠組みをはずした挑戦を
取り組んだこととして、思いきって責任ある仕事をスタッフにお願いしていきました。正直問題が起こる不安と恐れでいっぱいでしたが、じっと見守ることに徹したのです。実際に問題が起きたこともありました。それでも諦めずに信頼し支援し、本人に裁量権を与えるスタンスを貫きました。それは、「必ず事務所がよくなる」という「確信」と「見通し」があったからです。
次に社員が内発的なモチベーションを持って、幸せに働ける環境作りや情報提供に力を入れました。「スタッフが幸せに働ける組織とは、自己実現できる組織である」という講座での学びを活かし、「十年後の自分像」や「一年後の目標」、「それらを達成するための行動」を熟考できるセルフカウンセリングシートを作成したり、グループLINEで成長に役立つ情報を積極的に提供したりしました。見返りを求めるのではなく、あくまでスタッフのためにやることなので、提出や返信は一切求めません。もちろん質問や支援を求められたときは全力で応じました。
それを続けた結果、私の変化を受け入れてくれたのか、今ではほとんどのスタッフが『頂点への道』講座を受講。スタッフの願望が明確になり、共通の価値観が生まれ、組織としての団結や成長が加速しました。私からの働きかけは一切せず、スタッフが受けたいと感じ、自費で受講しているのです。「必要以上に管理しない文化」と「自己実現を支援する文化」が生み出したことだと思います。
初受講から約三年半。結果的に年収も毎年約120%の成長を続けています。「成長の頭打ち」という受講前に抱えていた不安が今はなく、これからの未来を信じられていることも大きな成果だと思います。何より、スタッフが倍以上に増え、関係性もよく、退職者がほとんどいなくなりました。道半ばではありますが、不安を振り切って挑戦してきたことは間違いなかったとつくづく感じています。
経営者として果たすべき責任は「第一にスタッフを大切にすること」。この価値観が信念に変わりました。かつては顧客を優先していました。しかし、経営者である私以外に、誰がスタッフのことを考えるのでしょうか。私がスタッフのことを大切にできたぶん、今度はスタッフが顧客を大切にしていくのです。その連鎖がよい組織を作っていくと、経験を通して学ぶことができました。
これからも、社員の自己実現を基軸に舵取りしながら、お客様が本当に求めていることを追求し、各士業の枠を超えて、上質なサービスを提供していきます。そして、一人ひとりが主役で輝き続ける組織として、さらに挑戦していきます。