職場も家庭も最悪だった人間関係
治療院を開業したのは、業界に勤めてから10年が経った頃でした。技術は人一倍身につけて来た自負があり、新たな挑戦をと独立を決めました。2名の社員とともにスタートしましたが、これまでマネジメントをしっかりと学んできたことはなく、うまく部下を指導することが出来ませんでした。「なんでお前はこんなことも出来ないんだ」毎日そう嘆いていました。昼休みになると、明らかに私を避けるような態度を取る社員。きっと顔も見たくない上司だったのだと思います。それは職場だけではありません。開業当時、結婚5年目となる妻がいましたが、ほとんど口を聞いていませんでした。わずかに話すことといえば、「もっと家のことを手伝ってほしい」「子どもの世話をしてほしい」など。「お前たちのために必死に働いてお金を稼いでるんだぞ」そんな言い争いばかりでした。職場にも家庭にも私にとっての理解者は存在しない中、来る日も来る日も仕事に打ち込んでいました。会社を続けることに必死でした。年間360日は働いていたのですが、どんなに頑張っても常に心を支配していたのは孤独感だったのです。
目標よりも大切なもの
アチーブメントと出会ったのは、先輩経営者からの紹介でした。青木社長の2時間の講演会で、「どうやら目的が大切らしい」と知りました。スタンダードコースに行けばそれを学べると聞き受講を決意。そして、初受講で「10年で10店舗展開することを目指している」とテーブルの先輩受講生に伝えたところ、「なぜですか?」と聞かれ、答えられなかったことを今でも鮮明に覚えています。しかしそれでも、目標達成になぜ目的が役立つのか理解が出来ませんでした。
一番の転換点は、シリーズ研修の3つ目である、ダイナミックアドバンスコースでした。相手の立場に立つとはどういうことなのかを学ぶセッションがあり、そこで私の人生が大きく変わりました。これまで自分の視点でしか妻の存在を見てこなかったのですが、彼女の立場に立って、なぜいつも自分に厳しいことを言うのかを真剣に考えてると、「あなたの健康が心配」という土台にある思いに気がついたのです。妻は私のことを大切に思い、気にかけてくれていました。しかし、その気持ちを受け取っていなかったのは私でした。涙が止まらず、どれだけ妻に支えられて来たのかを噛み締め、感謝が溢れました。もっと恩返ししたい、幸せな人生を送ってほしいと思ったとき、これが人生の目的なのかもしれないと気がついたのです。目標達成は確かに大切ですが、その先にいる誰かの幸せという目的がない限り、ただの自己満足で、誰も幸せにできないと学びました。
逆境から学んだ経営者としての「覚悟」
人を大切にする経営者でありたい。そんな思いを持って現場に戻りました。そこからは試行錯誤の連続でした。自分なりに改善に取り組めていたつもりだったのですが、開業3年が経ったころ、ともに連れ添った社員が退職することになったのです。開業以来初のことでした。開院間もない3店舗目を任せていた社員で、閉院を余儀なくされました。そんな彼からは「東京で働きたい」という願いをいつも聞いていたのですが、転職をしたのはわずか1キロ先の整骨院だったのです。何も条件が変わらないのに、どうしてそっちに行ったのか。憤りを感じながらも、彼からは「あなたの元ではもうやっていけません」と言われているようでした。振り返れば、口では社員を大切にしたいと言いながら、全く行動で示していなかったのです。私が本当に心を決めて変わっていかない限り、この先も退職が続くことは容易に想像つきました。そして社員全員の人生を背負い、必ず彼らに自己実現できる環境を提供すると、覚悟を決めて全社員に頭を下げ、「本当に申し訳なかった。私が甘んじていた。絶対に変わるので、ついてきてほしい」と伝えました。そこからは、とにかく一から学び直しました。スタンダードコースの再受講、経営実践塾の受講、またセールスとマネジメントの教材での学習など、ありとあらゆるアチーブメントの学びを徹底的に活用しました。結果行き着いたのは、社員たちを勝たせるために時間を使うということ。知人との飲み会の時間は、社員のトレーニングの時間に変わっていきました。そして、誕生日には、一人ひとりを思って選んだプレゼントを渡し、給料日には明細に感謝のメッセージを添えて渡しました。もちろんすぐには変化が現れませんでしたが、一歩ずつ着実にコミュニケーションが取れるようになり、距離が近づいていったのです。
62店舗、社員372名、名実ともに業界トップを目指して―
社員を勝たせるために目指したのは、一人ひとりが活躍できる組織。そのため、代表の私ではなく社員が責任を果たす働き方が必要不可欠です。そこで、ここ3年は社員への権限委任に着手しました。施術はもちろん、マネジメントや、スタッフの育成、突発的なトラブル対応も、現場に意識を向け続けながら、実践は全て一人ひとりの社員に任せました。相談をもらったら、会社として大切にしている価値観や目指す方向性を伝え、「君なら出来ると思うよ、どうしたら良さそう?」と聞き続けました。どうしたら会社の理念・ビジョンから一貫した目標達成が出来るのかを自ら考えてもらうことを意識して関わったのです。自分がやったほうがその場の解決は早いかも知れませんが、自分と同じ判断基準を身に付けた社員が育たなければ、会社の未来はないと割り切り、焦らずに待ち続けたのです。そうして理念が徐々に行動へ現れはじめ、それとともに成果が伸び始めました。
初受講から7年がたった今、かつて2名だった社員は16名に増え、毎年135%成長を続けられ、1店舗・売上1000万だったところから、昨年度は2店舗売上7400万、2018年1月に3店舗目開院、2018年5月に4店舗目開院の実績を作ることができました。年間休日は5日から90日に増え、家族との時間を確保できています。それらは全て、「目標」ではなく、社員の自己実現という「目的」にこだわった結果です。何より成長する社員たちを見るのがこの上なく嬉しいです。部下の成功が自分の喜びに変わっていったのです。会社としてもようやくステージが上がり、軌道に乗り始めました。私たちのミッションとは、人々に健康をもたらし、世に貢献すること。きっと社会がそのミッションの実現を求めていると思っています。さらに貢献の幅を拡張していきます。
10年後、62店舗・売上31億・経常利益10億・社員372名というのが今の一つの目標です。この達成を必ず成し遂げるべく、今日も大切な社員と家族と共に、目の前の一歩を着実に歩んでいきます。