「理念は何?」と聞かれて答えられなかった
村田石油は、祖父が創業し、私で三代目となる出光石油系列のガソリンスタンド企業です。同業界は、マイナス成長の真っ只中で、私が就職したころから、将来のさらなる需要減への懸念がはびこっていました。しかし、どんな手を打つべきかわからず、当初は現場でひたすら仕事に打ち込むことで、気を紛らわせていたような気がします。何よりも人材不足が大きな問題でした。当時、3名の社員と数名のアルバイトスタッフがいましたが、アルバイトの学生は就活になると決まって退職していきます。長らくこの繰り返しで、一向に人材が定着せず、サービスの質が上がらない状態でした。
ある日、ついに社員の一人が「将来の見通しがない」と離職を申し出ましたが、それ以上に、何も言えなかった自分がショックでした。魅力的なビジョンを打ち立て、キラキラ働く人ばかりであれば、こんなことはないのに、それを語れない自分が情けなかったのです。『頂点への道』講座に出会ったのは、経営に苦悩していたこのときです。初受講当時、担当コンサルタントに会社の理念を問われ、答えられなかった悔しさを、いまでも覚えています。
母の手紙で気づいた他責の自分
初受講の3日間は、経営についてまともに勉強したことのない私にとって、貴重な学びの連続でした。感化され、すぐに社員を集め「おまえらも学ばなきゃだめだ!」と声を張り上げました。アチーブメントで学んだばかりの私の目には、従業員の「できていないところ」ばかりが映ってしまったのです。言うまでもなく、社員からは猛反発を受け、つかみ合いのケンカになりました。親子と上司部下という複雑な関係であった社長の父とも、お世辞にも良い関係性とは言えず、従業員とも社長ともうまくいかない状況でした。そんな関係性に変化が生まれたのは、実家を離れて一人暮らしをする引っ越しのときです。荷物の整理をしていたら、母が友人に宛てた手紙が出てきました。そこには祖父を介護する大変さと、私と父がケンカをすることへの苦悩が綴られていたのです。このときにハッとしたのを覚えています。自分の大変さや苦悩ばかりを考えていましたが、それが周りにも影響を与えているということ、そして母のように多くの人が支えてくれているからこそ、いまがあるのだと思ったのです。考えてみれば、村田石油を40年以上守ってきたのは祖父・父や社員のおかげです。そう思えたとき、胸の奥から感謝の気持ちがあふれてきました。会社の経営も地域密着も、一朝一夕で築くことはできない。三代目の自分は、その恩恵にあずかっているんだ。これからは、自分が創業者になったつもりで未来を切り拓いていく必要があると思ったのです。
理念から新しい職業観が生まれる
私が描く理想の組織とは何か?誰のために、何のために、なぜこの会社は存在するのか?再受講のたびに考えました。そして、その都度その都度、願望が明確になっていき、伝達力の本質を学ぶ「ピークパフォーマンスコース」の受講が終わったとき、私は社員に「俺は社長になる!」と宣言しました。三代目ですから、やがて社長になるのは分かり切ったことです。社員は「何をいまさら」とキョトンとしていましたが、私にとってその宣言は、経営者として腹をくくるという約束の言葉でした。
学びを活かし、三方良しの理念を掲げ、実践を繰り返しながら自分と向き合いました。そして、理念浸透のために理念唱和や表彰制度なども設け、取り組んできました。しかし、そうした仕組みや制度よりもさらに大切だと痛感したことがあります。それは「日々の関わり」です。自分が理念から一貫した行動を取っているか、日常会話や会議の席でも理念を伝えられているか、常に自問自答しました。経営者である私だけではなく、従業員一人ひとりが理念に共感し、自分事にしてもらうことが理念経営のすべてだと思ったからです。
ガソリンスタンドという仕事についても深掘りしました。私が目指したいのはガソリンのみならず、車のことなら何でも相談できるお店、お客様から「あなたにすべてお任せします」と言ってもらえる店です。そのために、給油以外のサービスを充実すべく、タイヤ、車検、コーティングなどで有名な全国の会社をすべてまわり、成功事例をお聞きしました。それを従業員にシェアし、自分たちにマッチするものから素直に取り組みました。結果、村田石油は、ガソリンやオイルしか扱っていなかった店から、車検、新車販売、中古車売買、リース、レンタカー、介護タクシーまで幅広く扱う総合サービスステーションへと進化していきました。そして、この職業感をもっと社内に浸透させたいと思い、「トータルカーサービスプランナー」という職業名を商標登録しました。社員たちに自分の仕事に、心の底から自信を持ってほしかったからです。
地域と業界のリーディングカンパニーになる
理念を中心とした経営を始めてからというもの、顧客数は2倍に伸びました。遠くからでも指名で来てくださる方が増えたのです。また、感謝を伝え続けた結果、父との関係も良好になりました。加えて、「ガソリンスタンドに教育はいらない」と言い放っていた専務の叔父も、「自分にできる協力は惜しまない」と言い、アチーブメント社の組織向け研修i-Standardに毎回参加し、講座を一緒に受講してくれています。
経営理念もビジョンも不明確だった私でしたが、いまでは明確な理想を描き、そこに向かって多くの社員とともに取り組めているという自負があります。まだまだこれからではありますが、二代目・三代目経営者だからこそ抱える悩みもあると思い、私の経験を積極的に地域の経営者仲間に伝える講演活動にも力を入れています。そして思うのは、地域貢献のためには、「地域と業界のリーディングカンパニー」になることが一番だということです。これらのアイデアも、目標やビジョンも、学び続けなければ見えていなかったと思います。ぜひともに継続学習をし、未来を切り拓き、成長していきましょう。