Step1 経営者の自己変革
「自己実現の舞台を届けたい、確立した経営の土台」
―「自分の思いがしっかり社員に伝わるのだろうか?」そんな不安は、経営者であれば一度は経験したことがあるのではないでしょうか。理念経営の実現は経営者から始まると言われます。では、経営者自身が思いを明確にし、そしてそれを社員に伝え共感を得るために、一体何を大切にすればよいのだろうか? 長澤貢多社長の経験とともに、そのプロセスを伺いました。
<受講歴>
- 2013年 11月 スタンダードコース初受講
- 2014年 4月 ダイナミックコース受講
- 2014年 6月 ダイナミックアドバンスコース受講
- 2015年 5月 ピークパフォーマンスコース受講
- 2016年 7月 新・プロスピーカー・トレーニング・プログラム 受講スタート
- 2017年 4月 経営実践塾受講スタート
- 2017年 6月 ベーシックプロスピーカー合格
ナサ工業は父が創業した会社です。その二代目社長に就任したのは2004年のことでした。もともと大企業に勤めていたこともあって、働き始めた当初は、環境や仕組み面で格差に驚いたのを覚えています。整っていないところだらけの現状に焦りを感じて、とにかく良くしないといけない、そんな思いで改善施策を手当たり次第に打っていきました。しかしその多くが成果が現れずじまいで、就任から8年が経ったころ、社内からは「もう社長についていくのは疲れました」という声が上がってきたのです。会社や社員のために取り組んでいると思っていたのですが、社内は疲弊するばかりで、人間関係も悪くなっていました。そんな頃に受講したのが、『頂点への道』講座 スタンダードコースでした。「経営の目的とは縁ある人を幸せにすることである」。この言葉に大きな衝撃を受けました。不足感にかられて行動をしていたのですが、何のためにやっているのか?という目的を曖昧にしていたのです。ダイナミック・アドバンスコースの中では、自分の人生で最も喜びを感じるのはどんなときか、どんな生き方が一番納得いくのか、というテーマと向き合いました。見つけた答えは、「人を活かせる人になりたい」という思いだったのです。この会社に入ってくれた社員たちが最大限に活かされる組織にしていきたい、そんな思いが明確になっていきました。
思えば理念は、先代から受け継いできたものがありました。しかし、明文化されていなかったのです。熟考し、たどり着いた答えは、「会社とはまず社員の幸せを実現するために存在している」ということ。全社員が物心両面の幸福を実現するために、団結して成果に向かい、より良い仕事を追求し続けていく、という私たちの使命を明文化し、『「一塊」となって「上質を追求」する』という経営理念を掲げました。目指す先は日本一。そう心に決めて気持ちを入れ替えたのです。
しかし、明文化した理念を、理念ブックに載せるとなったとき、心がざわつきました。本当にできるのか、理想だけ掲げてうまくいかなかったらどうしよう、社員はついてきてくれるのだろうか。そんな思いが頭をよぎり、日本を須恵町に書き直してしまったのです。つかの間の安心が訪れました。みんなもこれで安心するだろうと思ったのですが、社員からもらったのは「それでいいんですか?」という一言だったのです。社員たちは、私が思っているよりも会社のことを考えていて、よりよい仕事を追求するという先代の価値観を、しっかりと受け継いでいることに気がついたのです。感謝の思いが溢れました。一人で経営をしているわけではなく、みんなでチームでやっているんだと改めて腑に落ちたのです。全社員にお詫びをして、理念ブックに書いてある「須恵町」という文字を、その場で「日本」に書き直してもらいました。そしてそれは、なんとしても全社員を幸せにするんだと、掲げた理念に誰よりも生ききると、私が心の底から決心した瞬間だったのです。
Step2
幹部への理念浸透「理念経営実現のキーマンとして」Step3 スタッフへの浸透「人の喜びを作り出す仕事」
―経営者の自己変革だけでは理念経営は実現せず、メンバーの自己変革や理念の浸透が必要不可欠です。価値観が一貫し、内発的に社員がイキイキと働く環境を作るために、どのように幹部や組織全体を巻き込んだのか? その秘訣と変遷を、取締役専務の長澤敏光氏と、塗装課課長の今泉龍也氏に伺いました。
通訳者であるためにまずは熟知者であれ
Q. まさに現場を牽引するリーダーとしてご活躍をされていますが、会社の発展に貢献すると心を決めたのはなにがきっかけだったのですか?
長澤 一番大きかったのは、周りの目ではなく目標達成に対して効果的な行動を取ると割り切れたことだと思います。
私は、会社の二番手でありながら、社長・長澤貢多の実の弟でもあります。入社をしたのが同じタイミングで、これまで一緒に歩んできました。いろいろなことに積極的に挑戦する兄、その後ろで見守る弟。思い返せば子どもの頃からそんな関係性だったのかもしれません。表舞台に立つ兄がいるので、自分の出番はあまりなく、言うことを聞いていればいい、どこかそう自分に言い聞かしていました。しかし、アチーブメント社の『頂点への道』講座ダイナミックコースの受講を通して、リーダーシップとは目標達成に対する肯定的な影響力であると学び、二番手である私が会社で果たすべき役割は、言われたことを淡々とやっていくだけではないと学びました。
その日から私の中での判断基準が変わりました。どうしたら周りと気まずくならないかではなく、どうしたら組織の目標達成を作り出せるのか、そのために自分はどんな行動を取れるのかに焦点を当てるようになったのです。実際に社長に対しても思っていることを発信し、伝えていくと、距離感はむしろ近づき、お互いの信頼がより深くなったのを感じます。
今泉 私は、社長の等身大の思いを聞いたときでした。組織向け研修であるi‐Standardを受講する中で、長澤社長が理念に関してプレゼンテーションをしてくださるセッションがありました。そこで「会社の発展や拡大を目指しているのは、一人ひとりの社員を幸せにしたいからだ」という思いが、私の心に響いたのです。そして、講師からその理念の浸透を止めているのは現場のマネジャーであることが多いと講義の中で学び、確かに作業的な指導に偏っていると気が付きました。受講以降は、指導方法を工夫し、「私たちはただ塗装をやっているのではなく、お客様が喜んでくれる製品を作っている。そして、上質な仕事を追求した先に必ず満足を得られる。製品が届いた先のお客様のことを常に考えながら誠実な仕事をしよう」と、理念から一貫した伝え方をするようにしています。
思いを汲み、伝える存在として
Q. 企業理念から部下に指導をすることはそう簡単ではないと思いますが、どのような点で工夫をしていますか?
長澤 決断の背景を念入りに聞くようにしています。これまで言われた仕事をやるというスタンスでしたが、そうではなくて自分事にするために、なぜ社長がその選択をしたのか、何を意図しているのかを徹底的に聞くようにしています。自然とコミュニケーションの時間が増えていきました。決断の背景から部下に伝えられるので、自信を持って話すことが出来ますし、ただの業務ではなく、その業務の目指している方向性がとても明確になり、共有できるようになりました。
今泉 背景を理解するという点では、私も長澤専務と同じです。会社の理念や考え方に対して、「教えてもらっていないからわからない」ではなく、「わからないなら自分なりに勉強してみよう」というスタンスで取り組むようにしています。社是の意味とは何かを聞くことももちろん、特に部下への具体的な関わり方に関しては、社長や専務からされている関わりがとても勉強になっています。仕事のことはもちろん、プライベートの相談も真剣に乗り、どうしたらこの会社で自己実現を果たすことができるのか?という視点から支援するように心がけています。
長澤 これまで私たちの会社ではこれと言って体系化されたマネジメントの手法がありませんでした。どちらかというと現場任せの指導になっていましたが、そこにすごく役に立ったのがiシリーズの研修だと思います。マネジメントの基本概念を学ぶとともに、自身の仕事に対する思いや、理想の人生とはなにか?をアウトプットしながら明確にしていく機会があります。過去6回実施してきた中で、回数を追うごとにメッセージが深まり、参加者の「伝える力」が格段に向上してきたのを感じています。理念から一貫した指導で言えば、この点で学んで力がついていったところがあります。
今泉 研修の中での学びは確かに大きかったと思います。選択理論心理学で伝えられている「人は常に最善の行動を選択している」という考え方には感銘を受けました。これまで部下がミスをすると、心のどこかで責めていたところがありましたが、本人もわざとやっているわけではないですし、責めるよりも一緒に改善案を考えて、本人の最善の選択の基準を一緒に高めていくほうが、ずっと効果的だと腑に落とすことが出来ました。マネジメントの具体的なスキルももちろん大切なのですが、このマネジャーとしてのスタンスを学べたことはとても大きかったです。誠実でお客様に信頼いただける仕事を部下と一緒に考えて取り組むようにしています。
「目的」という指針の重要性
かつては試行錯誤をしながら、完璧な会社を目指そうとしていました。スキル向上や仕組み導入をするものの、向かう先が曖昧でした。理念経営に触れてからは、縁ある人の幸せを目的に掲げ、方向性も判断基準も取り組みも研ぎ澄まされたと思います。しかし、ここまで変革を遂げられたのは、私一人の力ではなく、社員たちが私の思いを汲み取り、それを組織の隅々まで伝えてくれている賜物です。それができるようになったのは、iシリーズの研修を通して、社員一人ひとりの人生設計が明確になったからだと思います。会社側が一方的に方向性を指し示すだけでは社員は受け身で終わりますが、社員一人ひとりが自身の人生観や価値観、理想のキャリアを描けたときに、初めて会社と自分の人生を重ね合わせることが出来ます。理想を実現するために、会社という舞台をどう活用するかを考えられるのです。そうして、事業発展や組織の成長を、一人ひとりの社員が自分ごととして捉え、コミットメントできたと振り返って思います。
社員からの後押しがあって、「日本一を目指す」と決めてからは、組織全体の成長スピードが上がりました。「優秀板金製品技能フェア」という金属加工作品が全世界から集まる大会がありますが、1位の大臣賞を目指すことを皆で決めました。大会の目的を正確に共有し、ものづくりにこだわり、2015年、2016年には最優秀賞を受賞し、日本一の栄冠を手にできました。よりよい企業を目指そうと社員のスイッチも入り、平均残業時間は3年前と比べると約半分に削減され、家族との時間をより取ってもらえる環境になりつつあります。より安心して働いてもらうために、今は会社の近くに保育園の建設計画も進んでいます。これからも、全社員が物心両面の幸福を手にできる環境の提供にこだわっていきます。