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創業70年を超える老舗で人が育ち続ける理念経営の力

株式会社豆子郎
課題
理念はあったものの、なかなかそれが組織に浸透しきっていなかった
70歳ほどの年齢差があるスタッフの間で円滑なコミュニケーションがとれていなかった
効果
権限移譲し、社員が主体性を持って理念を考え、実行する組織へと変化
選択理論的関わりを重視したことで、人間関係が改善され、コミュニケーションが円滑に

Step1 経営者の自己変革
「社員育成の基礎は、文化の継承。
理念を伝え続けるのが私の仕事」

―数多くの幹部がが同じ価値観・判断基準で働く環境をいかに作り出したのか?豆子郎を背負う6代目社長の田原文栄氏にその経営の極意を伺いました。

田原 文栄株式会社豆子郎 代表取締役社長山口県内では銘菓と評される「豆子郎」を製造する株式会社豆子郎 代表取締役社長。老舗の同社を、2013年・2014年日経就職希望企業ランキング(九州・沖縄・山口版)へランクインへと導く。社団法人山口青年会議所第52代理事長、日本青年会議所菓子部会第40代会長などを歴任。JPSA 山口支部設立に向けて尽力する。

第一歩は理念の明確化だった

「豆子郎の文化は先輩の背中を見て学びなさい」。かつて社内でよく聞いた言葉です。我が社は、若い人では10代から、年配の方では80代までの幅広い年齢層の社員がいます。それは幹部しかりです。年が違えば、育ってきた文化や環境も違い、持っている常識ももちろん違います。創業者に触れてきた世代からすれば当たり前のことでも、若い世代には触れたことのない価値観で、「見て覚える」のは時間がかかっていました。青木社長から経営を学んで、まず行ったことは「豆子郎が大切にしている価値観とはなにか?」を明確に定義することでした。これが我が社の理念です。

  • 創業理念
      美味しさを通じて、
      お客様の喜びと幸せに貢献する
  • 経営ビジョン
      幸せを伝導する菓子づくり、人づくり
      を通じてふるさと山口に貢献する
      地域オンリーワン企業を目指します

自分が一番理念に生きている存在と言えるか?

この理念を全員の共通の価値観まで落とせたら、必ずお客様が味方となり、企業は繁栄する。その確信がありました。私がすべきことは「人づくり」であり、違う価値観や、明確な価値観がない人に、豆子郎の理念を伝え理解・共感を促すことだと思いました。そこで、まずは信頼・尊敬される自分になる努力をしました。部下のことを思い、望みを叶えるために、誠心誠意関わる。しっかりと話を聞き、期待を伝え、未来をともに考える。相談は親身に聞く。実践したことに共通するのは、幸せに過ごす環境を提供するという思いです。それが豆子郎の理念であり、まずは社員に示すことにこだわりました。

主役は常に社員である

もちろん苦労もありました。「会社は社員の自己実現の舞台である」。初めはこの言葉が理解できず、責任者は自分だから自分がすべての仕事をやろうと必死に踏ん張っていました。仕事は増えるばかりで日に日に苦しくなっていきます。転機は、アチーブメント社の講座受講中にもらった一言です。「もっと人の力を借りたら?」部下への関わりが変化したきっかけでした。孤独に頑張るのではなく、部下に仕事の意義と価値を伝えて委任し、やりがいを持って取り組んでもらう。そのほうが私にも部下にも組織にも良いと腑に落ちたのです。そこで、関わるスタンスをより「依頼・交渉」に変えました。相手が心地よく協力したくなるコミュニケーションを意識し、身につける努力をしたのです。少しずつですが、距離が近づいていき、私にとっての協力者が増えていったのです。正木もその一人で、彼が活躍することももちろん、一人の幹部として同じく人を育成できる存在になっていくように、部下へのフィードバックの観点や、経営をするうえでの判断基準など具体的な指導を実践しています。豆子郎が大切にする文化を継承し続け、縁ある人に貢献をし続ける企業として、これからも幹部と、社員と力を合わせて取り組んでまいります。

Step2 幹部への理念浸透
「幹部としての成長は、経営理念への共感が、
加速させてくれた。」

―役員室の室長として、また総務部のリーダーとして、採用担当責任者として、会社のありとあらゆる重役を担う正木さん。「彼の存在なくしては、会社は回らない」と田原代表に言わせるほど幹部として活躍をされていらっしゃいますが、そこに至った背景には何があったのでしょうか。入社からの成長の変遷を伺いました。

正木 富之株式会社豆子郎 総務部マネージャー / 役員室 室長

経営者の行動から企業理念を学んだ

企業発展に全力で取り組む理由は、経営者が「人として真っ直ぐに接してくれること」に恩返ししたいからです。入社時、私は2人の子どもを持つシングルファーザーでした。転職活動で多くの企業から、「子育てしながら働けるの?」と質問されましたが、豆子郎だけは違いました。「子育てと仕事を両立するために、どんな働き方が理想ですか?」会社の都合だけではなく、私の人生を真剣に考えていたのです。豆子郎の「人を大切にする」価値観に初めて触れた瞬間でした。入社後は代表のアシスタントで経営の判断基準を学ぶ機会が多くありました。伝統を受け継ぎ、人を育てるとは、私利私欲ではなく相手を心から思い、成長の支援をすることです。代表の私への関わりを通して、言葉ではなく行動で体現された理念の価値を体感しました。その思いを側近として社員に伝える立場にある、私の仕事への意味付けが変わりました。

得たものを受け継いでいく役割を担う

「人を大切にする関わり」を、どう社内に浸透させていくのか。会社全体を俯瞰する立場で考え、さまざまなプロジェクトを立ち上げました。中でも全社の有給消化率向上プロジェクトが印象に残っています。当時は、「有給がとれない」という声と、「有給は取るものではない」という声の両方が上がっていました。世代間で価値観が合わず、コミュニケーションが止まり、休みの調整ができていなかったのです。そこで、アチーブメント社で学んだ選択理論を実践し、相手の願望を念入りにヒアリング。社員同士ですり合わせ、関係が良くなる橋渡しをしました。具体的にどう伝えるのかを何度も熟考した末、有給取得に反対の年配の方には「公私共に充実できる良い会社を共に作りませんか?」と伝え、有給取得を望む若手には、「休みは誰かが代わりに働いてくれるから取れるもので、感謝を伝え万全な準備をするのが大事だね」と伝え、バランスを保つように取り組みました。初めは上手くいかないことばかりで、非常に苦労しましたが、そんな状況で支えていただいたのも代表でした。たくさんの逆境を乗り越えて学んだのは、会社が貢献すべき対象は、お客様の前にまず社員であるということです。努力の甲斐があり、2.2日だった有給消化率は、1年以内には6.6日に増加しました。業績と共に伸び続けており、喜びの声が上がっています。

業務のトラブルは人間関係に起因することが多く、解決策は正しさの押し付け合いでも、規則でもありません。お互いに関心を持つ以外ないのです。企業理念を言葉ではなく行動で完結していく。代表のその姿勢と生き方に学ばせてもらっています。大切にしてもらえた分、恩返ししようと、本気で会社に貢献しようと思うのです。理念経営の追求に終わりはありません。今に満足せず、社員・お客様・社会にとって必要とされる会社を目指して、今後も成長し続けてまいります。

Step3 スタッフへの浸透
「経営者と幹部の 一体感が後押しする 若手社員の成長」

―幹部の成長が、いかにしてスタッフの成長へと繋がり、組織レベルでの理念の浸透を後押ししているのか、採用を担当する社員のお話を伺いました。

藤野 毬子新卒入社4年目 (2019年1月現在)、店舗の責任者を務めながら採用責任者を兼任。豆子郎の価値観を伝えるメッセンジャーとして、営業・採用共に最前線に立ち、活躍している。

どんな仕事・会社でも良いと思って就職活動をしていましたが、豆子郎に出会ってお菓子作りに真剣に打ち込み、社会に貢献するということを追求する姿に魅了されました。自分もそんな生き方がしたい、そう思って入社を決意しました。何を仕事とするのかは私にとってはあまり重要ではなく、頑張る理由は大切な人たちの力になりたいという思いです。私だからこそできることに全力投球してきました。

採用・店舗のマネジメントをはじめ、たくさんのプロジェクトを任せていただいていますが、いつも困ったとき指導していただけるのは、正木さんをはじめとした諸先輩方の皆さんです。田原社長の考えや、豆子郎の理念をわかりやすく落とし込んでいただけるので、働きやすい環境です。聞けば聞くほど、もっと会社に貢献したい、成長したいという思いが湧き上がります。創業者や役員の思いを一番引き継げるスタッフになっていくことを目指して、取り組んでいきます。

プロフィール
山口を代表する銘菓として知られる「豆子郎」。1948年の創業以来、美味しさの追求をし続け、日本全国で愛されるブランドのひとつとなっている。上は80代、下は10代と幅広い年代の従業員をもちながら、価値観の違いのよる弊害を克服し、お互いが円滑に意見交換し合える関係性を社内で構築している。理念経営の推進企業として、100名を超える組織でありながら、安定した成長を続けている。では、何を実行し、どう関わることで、幹部が育っていくのかを、代表の田原文栄氏・幹部の正木富之氏・そして新卒入社社員に、伝統を支える理念経営の極意を伺った。

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