「経営が行き届かない…」理念浸透の重要さを痛感
『頂点への道』講座の初受講は2017年9月でした。経営の一端を担う医療法人が、赤字続きで金融機関から心配の声が上がるほど危機的な状態に陥っていたころです。父が小さな病院として立ち上げ、地域のニーズに応えるために介護・障がい者福祉の分野にまで事業を拡大。600人のスタッフを抱えるまでになっていました。目覚ましい成長の傍ら、顔も知らない職員さんが増え、事業の拡大に経営が追いつかなくなり、組織としての統制が取れなくなっていたのです。そうであるにもかかわらず、経営を担う兄と私は診療に追われる毎日。経営破綻を迎える一歩手前になってようやく気づいたのです。「父の代から大切にしている医療への想いが、全くスタッフに伝わっていない」と。私たちには、「和顔愛語(わげんあいご)」という理念が昔から存在していました。優しい笑顔と思いやりのある言葉遣いで、自分と周囲の人々を幸せにする、という意味です。これを組織に浸透させようと、病院のあちこちに言葉を張り出していましたが、本当の意味を理解する職員はほんの僅かでした。これでは統制が取れないのも無理はない、なんとか打開しようと、部下の一人に「日本で一番、理念経営に優れた会社はどこ?」と聞き、返ってきた答えが、アチーブメント社だったのです。
第二象限を優先し、組織内での明確な立ち位置を確立
そうして『頂点への道』講座を知るも、忙しさを言い訳に受講を先延ばしする私を見かねて、部下がこう言ってくれました。「先生の時間を3日間空けましたので絶対に受講してください。さぼっちゃダメですよ」と。この後押しがなければ重い腰を上げることはなかったと思います。
迎えた受講初日。正直現場の忙しさに追われ、あまり前向きな気持ちではなく、帰りたいと思っていました。しかし、講座の中で青木社長が口にした「あなたの人生理念は何ですか?」と言う言葉に衝撃を受けたのです。会社の理念を考えるも、自分の理念など考えたことがなく、「私の理念?え?何のこと?」と戸惑ったのです。また、「会社の未来を決めるのは経営者の思考である」という言葉にも感銘を受けました。私は思いました。「会社の未来もさることながら、自分の未来も明確に描けない経営者が、600人ものスタッフを豊かにできるはずがない。まず最優先すべきは、自分と組織の未来を明確に描くことだ」と。
現場に戻って、さっそく時間を確保するために、週6日の診療を同僚のドクターにお願いしました。人に頼ることが苦手だった私にとってはこの依頼そのものが大きな挑戦でした。申し訳なさを感じつつも、600人の未来のためにと、お願いをしてみたら快く引き受けてくれたのです。そうして、週6日の診療をおよそ1日にまで減らすことができ、空いた時間を、講座で学んだ緊急ではないが重要な「第二象限」に取り組む時間に当てました。経営能力を高めるために、「経営実践塾」や「経営幹部塾」と次々に受講。そのなかでさらに落とし込まれた課題が、私の組織での振る舞いだったのです。「良かれと思ってリーダーシップを発揮していましたが、トップである兄と、方向性のズレがあった」と気づきました。組織に社長が二人いて、それぞれがバラバラに伝えたいことを伝えてしまうと、スタッフが混乱するのは当然です。そうならないためには、私がナンバー2としての立ち位置を明確にし、兄と意思統一をした上で、代弁者になることが必要だと思い、理念から一貫したメッセージを伝え続けるよう徹底していったのです。
変化をもたらしたのは、成果からの逆算と事前対応
月・金の午後は幹部会議の時間として、月曜に上がってきた問題を金曜までに検討して改善し、それを各部門に伝達するというサイクルができました。また、人事、財務、企画といった役割ごとの部門をはっきりわけ、理念を土台にした人事考課制度、教育評価システムづくりを3年がかりで作り上げていきました。この間も決して順風満帆ではなく、数十人の離職、人員不足による患者受入の減少、赤字が数か月続くなど、多くの試練があったのです。それでもとにかく学びを信じて取り組み続け、目標設定やコミュニケーションの取り方について、私がスタッフのもとに直接出向いて勉強会を行ったりと、理念浸透のためにできることをすべてやりました。その結果、徐々に組織に変化が生まれ、理念への理解が深まっていったのです。
また、仕事だけでなく、家庭にも変化が生まれました。以前は感情に流され、子どもたちに怒鳴ることがありました。しかし、未来を予測してあらかじめ手を打っておく「事前対応」に注力してからは、予想外のことに振り回されることがぐんと減りました。その結果、心の平安が保たれ、怒りの感情を持つことが殆どなくなったのです。患者さんに対してもスタッフに対しても同じように振る舞うことができるようになり、心を開いてくれる方がどんどん増えていきました。
医療を通した社会貢献で、児童虐待をなくしたい
こうした成長をもたらしてくれたのは、間違いなく継続学習だと思います。再受講のたびに自分の取り組みを客観視して、課題や取り組むべきことが明確になっていくからです。
試行錯誤を重ね、明確になった使命があります。それは、児童虐待をなくすということです。医療に携わると様々な患者さんの悩みと向き合いますが、夫婦・親子の関係性がこれまで以上に悪くなっているのを感じます。しかし、かつての私がそうだったように、自分の努力で行動を変えていくことで、私たちは快適な生き方を選ぶことができます。それを一つでも多くの家庭に届けたいと心から思うのです。その願いから、アチーブメント社が提供する親向け研修『ファミリーコーチング』の講師にチャレンジし、先日認定をいただきました。これから講師としての活動も増えていきますが、仕事もままならなかったかつての自分では考えられなかったことです。本業で結果を出すことは大前提で、周囲の方々に貢献できる、納得のいく人生を送ってまいります。