※本記事は2012年10月13日発行のフジサンケイビジネスアイに掲載をされたものです。
- 残念ながら、そういう着眼点は現代日本の組織にはあんまりないのかもしれませんね。
青木心ある経営者は昔から「事業は人なり」「企業は人なり」と、教育に真剣に取り組んできたと思います。ただ、根本的に間違っているのは、間違った心理学をもとに、外から人を変えようとしていることです。これは私たちの会社の最高顧問であるウイリアム・グラッサーという精神科医が言っていることなんですが、人は外から変わるのではない。中から変わる。内側からの変革ですね。内発的動機づけが教育の鍵だと。それを私は啓蒙(けいもう)しています。
この間も、浜松市の教育委員会に招かれて、浜松市の中学校の校長先生、150人を前に研修したんですね。そのときに私が言ったのは、全体で子供の教育が7割、そして親の教育を3割しないとだめだ、と。親を呼んで教育しないとだめだ、と。子供にとっての環境とは、両親そのものなんですから。
三浦棟方志功という板画家がいました。僕は親戚なんですけどね。これが本当にどん底の貧乏暮らしで、田舎の鍛冶屋のせがれで、目は悪いし、身体も小さいし。僕の父親が同級生だったんです。ところがですね、絵を描くことに夢中になった。小学校のころから、です。へんてこな絵でね、リンゴを描けといったらかぼちゃみたいな絵を描く。岩木山を描けといったら画面からはみ出す、といった調子で。先生の評価は「志功はばかだから、どうしようもない」というもの。ところが、子供の間では人気があるんです。何だか面白いからね。皆で画用紙に何かを描けとやってくる。志功は、家が貧乏だから小学校を卒業して、裁判所で用務員をやっていて、お茶はこぼすし、しようがないけれども、暇さえあると絵を描いている。絵ばかの志功といわれていた。ある時、絵の好きなお医者さんが志功に「ゴッホの画集が手に入ったので来い」と。で、志功さんはページをめくるたびに感動しちゃったんです。それで、有名な「わだばゴッホになる」という言葉を残す。津軽弁でおれは将来、ゴッホみたいになると。それでしょっちゅうゴッホ、ゴッホと言っていた。周りは肺病になったか、と心配してね(笑)。でも本人は夢中。そういう強烈なあこがれ、イメージが彼の人生を動かして、世界の棟方志功になったんです。
人間には本来、そういう夢中になるもの、夢中になる時期がある。それをほどほどに、マニュアル通りにこなしていけばいいと思うと間違える。
三浦ならないです。ストレスを越えていかないと。
青木やっぱり人間力なんですよ。最後は人間力だと思います。自己中心的なエネルギーを発しているだけだと、人は力を貸さない。人が力を貸さないと、大きなことはできないんです。
北海道生まれ。1987年、選択理論心理学を基礎理論とした人材教育コンサルティング会社「アチーブメント株式会社」を設立。創業スタッフ5人でスタートした会社は、グループ子会社3社を含めて、現在では100人体制へ。創業以来、堅実着実に成長発展を続けている。『一生折れない自信のつくり方』『目標達成の技術』など著書多数。
青森市生まれ。北海道大学獣医学部卒。プロスキーヤー、冒険家。世界七大陸最高峰のスキー滑降を完全達成。2003年に70歳で、08年に75歳でエベレスト登頂を果たす。広域通信制高校、クラーク記念国際高等学校の校長としても活躍中。『75歳のエベレスト』『デブでズボラがエベレストに登れた理由』など著書多数。