プロフィール

ナサ工業株式会社
クオリティ・カンパニー。それは、社会に対する貢献性が高く、理念から一貫した経営を行い、社員からも顧客からも高い満足度を誇り、実質無借金経営を行っている優良企業のことである。ナサ工業株式会社、日本屈指の金属加工技術を持つ組織である。約100名の社員を有しながら、事業継承を経験。その中で、いかにして理念経営を実現してきたのか、その組織の変遷を追った。
- 幹部人材の育成
- 現場の主体性向上
- 理念浸透の推進
- 製造
- 組織の目標達成
- 課題
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- 企業としての目標が曖昧で、一体感がない
- 人間関係は悪くなくとも、達成への結束が弱かった
- 効果
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- 理念を土台に、日本一を目指すと決め、2年連続で達成
- 質の高い仕事へのこだわりが組織全体に継承され、高い顧客満足度を実現
Step1
~自己実現の舞台を届けたい、確立した経営の土台~
―「自分の思いがしっかり社員に伝わるのだろうか?」そんな不安は、経営者であれば一度は経験したことがあるのではないでしょうか。理念経営の実現は経営者から始まると言われます。では、経営者自身が思いを明確にし、そしてそれを社員に伝え共感を得るために、一体何を大切にすればよいのだろうか? 長澤貢多社長の経験とともに、そのプロセスを伺いました。
長澤 貢多ナサ工業株式会社ブレイシング 代表取締役社長 大手住宅メーカーを経て、1969年創業の父の会社を事業承継。いち町工場だった会社から、日本一を目指すと決め、採用、育成、人事制度などの変革に着手。技術面でも研鑽を積み、世界各国からの出品される「優秀板金製品技能フェア」で2年連続最優秀賞を果たしている。 <受講歴>
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ナサ工業は父が創業した会社です。その二代目社長に就任したのは2004年のことでした。もともと大企業に勤めていたこともあって、働き始めた当初は、環境や仕組み面で格差に驚いたのを覚えています。整っていないところだらけの現状に焦りを感じて、とにかく良くしないといけない、そんな思いで改善施策を手当たり次第に打っていきました。しかしその多くが成果が現れずじまいで、就任から8年が経ったころ、社内からは「もう社長についていくのは疲れました」という声が上がってきたのです。会社や社員のために取り組んでいると思っていたのですが、社内は疲弊するばかりで、人間関係も悪くなっていました。そんな頃に受講したのが、『頂点への道』講座 スタンダードコースでした。「経営の目的とは縁ある人を幸せにすることである」。この言葉に大きな衝撃を受けました。不足感にかられて行動をしていたのですが、何のためにやっているのか?という目的を曖昧にしていたのです。ダイナミック・アドバンスコースの中では、自分の人生で最も喜びを感じるのはどんなときか、どんな生き方が一番納得いくのか、というテーマと向き合いました。見つけた答えは、「人を活かせる人になりたい」という思いだったのです。この会社に入ってくれた社員たちが最大限に活かされる組織にしていきたい、そんな思いが明確になっていきました。
思えば理念は、先代から受け継いできたものがありました。しかし、明文化されていなかったのです。熟考し、たどり着いた答えは、「会社とはまず社員の幸せを実現するために存在している」ということ。全社員が物心両面の幸福を実現するために、団結して成果に向かい、より良い仕事を追求し続けていく、という私たちの使命を明文化し、『「一塊」となって「上質を追求」する』という経営理念を掲げました。目指す先は日本一。そう心に決めて気持ちを入れ替えたのです。
しかし、明文化した理念を、理念ブックに載せるとなったとき、心がざわつきました。本当にできるのか、理想だけ掲げてうまくいかなかったらどうしよう、社員はついてきてくれるのだろうか。そんな思いが頭をよぎり、日本を須恵町に書き直してしまったのです。つかの間の安心が訪れました。みんなもこれで安心するだろうと思ったのですが、社員からもらったのは「それでいいんですか?」という一言だったのです。社員たちは、私が思っているよりも会社のことを考えていて、よりよい仕事を追求するという先代の価値観を、しっかりと受け継いでいることに気がついたのです。感謝の思いが溢れました。一人で経営をしているわけではなく、みんなでチームでやっているんだと改めて腑に落ちたのです。全社員にお詫びをして、理念ブックに書いてある「須恵町」という文字を、その場で「日本」に書き直してもらいました。そしてそれは、なんとしても全社員を幸せにするんだと、掲げた理念に誰よりも生ききると、私が心の底から決心した瞬間だったのです。

社員全員がビジョンを手書きで修正しコミットメントした
Step2
幹部への理念浸透
Step3
―経営者の自己変革だけでは理念経営は実現せず、メンバーの自己変革や理念の浸透が必要不可欠です。価値観が一貫し、内発的に社員がイキイキと働く環境を作るために、どのように幹部や組織全体を巻き込んだのか? その秘訣と変遷を、取締役専務の長澤敏光氏と、塗装課課長の今泉龍也氏に伺いました。
長澤 敏光ナサ工業株式会社 取締役専務 |
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今泉 龍也ナサ工業株式会社 塗装課課長 |
通訳者であるためにまずは熟知者であれ
Q. まさに現場を牽引するリーダーとしてご活躍をされていますが、会社の発展に貢献すると心を決めたのはなにがきっかけだったのですか?
長澤 一番大きかったのは、周りの目ではなく目標達成に対して効果的な行動を取ると割り切れたことだと思います。
私は、会社の二番手でありながら、社長・長澤貢多の実の弟でもあります。入社をしたのが同じタイミングで、これまで一緒に歩んできました。いろいろなことに積極的に挑戦する兄、その後ろで見守る弟。思い返せば子どもの頃からそんな関係性だったのかもしれません。表舞台に立つ兄がいるので、自分の出番はあまりなく、言うことを聞いていればいい、どこかそう自分に言い聞かしていました。しかし、アチーブメント社の『頂点への道』講座ダイナミックコースの受講を通して、リーダーシップとは目標達成に対する肯定的な影響力であると学び、二番手である私が会社で果たすべき役割は、言われたことを淡々とやっていくだけではないと学びました。
その日から私の中での判断基準が変わりました。どうしたら周りと気まずくならないかではなく、どうしたら組織の目標達成を作り出せるのか、そのために自分はどんな行動を取れるのかに焦点を当てるようになったのです。実際に社長に対しても思っていることを発信し、伝えていくと、距離感はむしろ近づき、お互いの信頼がより深くなったのを感じます。
今泉 私は、社長の等身大の思いを聞いたときでした。組織向け研修であるi‐Standardを受講する中で、長澤社長が理念に関してプレゼンテーションをしてくださるセッションがありました。そこで「会社の発展や拡大を目指しているのは、一人ひとりの社員を幸せにしたいからだ」という思いが、私の心に響いたのです。そして、講師からその理念の浸透を止めているのは現場のマネジャーであることが多いと講義の中で学び、確かに作業的な指導に偏っていると気が付きました。受講以降は、指導方法を工夫し、「私たちはただ塗装をやっているのではなく、お客様が喜んでくれる製品を作っている。そして、上質な仕事を追求した先に必ず満足を得られる。製品が届いた先のお客様のことを常に考えながら誠実な仕事をしよう」と、理念から一貫した伝え方をするようにしています。

社長自らが組織研修で理念について熱くメッセージする
思いを汲み、伝える存在として
Q. 企業理念から部下に指導をすることはそう簡単ではないと思いますが、どのような点で工夫をしていますか?
長澤 決断の背景を念入りに聞くようにしています。これまで言われた仕事をやるというスタンスでしたが、そうではなくて自分事にするために、なぜ社長がその選択をしたのか、何を意図しているのかを徹底的に聞くようにしています。自然とコミュニケーションの時間が増えていきました。決断の背景から部下に伝えられるので、自信を持って話すことが出来ますし、ただの業務ではなく、その業務の目指している方向性がとても明確になり、共有できるようになりました。
今泉 背景を理解するという点では、私も長澤専務と同じです。会社の理念や考え方に対して、「教えてもらっていないからわからない」ではなく、「わからないなら自分なりに勉強してみよう」というスタンスで取り組むようにしています。社是の意味とは何かを聞くことももちろん、特に部下への具体的な関わり方に関しては、社長や専務からされている関わりがとても勉強になっています。仕事のことはもちろん、プライベートの相談も真剣に乗り、どうしたらこの会社で自己実現を果たすことができるのか?という視点から支援するように心がけています。
長澤 これまで私たちの会社ではこれと言って体系化されたマネジメントの手法がありませんでした。どちらかというと現場任せの指導になっていましたが、そこにすごく役に立ったのがiシリーズの研修だと思います。マネジメントの基本概念を学ぶとともに、自身の仕事に対する思いや、理想の人生とはなにか?をアウトプットしながら明確にしていく機会があります。過去6回実施してきた中で、回数を追うごとにメッセージが深まり、参加者の「伝える力」が格段に向上してきたのを感じています。理念から一貫した指導で言えば、この点で学んで力がついていったところがあります。
今泉 研修の中での学びは確かに大きかったと思います。選択理論心理学で伝えられている「人は常に最善の行動を選択している」という考え方には感銘を受けました。これまで部下がミスをすると、心のどこかで責めていたところがありましたが、本人もわざとやっているわけではないですし、責めるよりも一緒に改善案を考えて、本人の最善の選択の基準を一緒に高めていくほうが、ずっと効果的だと腑に落とすことが出来ました。マネジメントの具体的なスキルももちろん大切なのですが、このマネジャーとしてのスタンスを学べたことはとても大きかったです。誠実でお客様に信頼いただける仕事を部下と一緒に考えて取り組むようにしています。
「目的」という指針の重要性